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五島 慶一(GOTO, Keiichi)

【メッセージ】
 日本近代文学を専門にしています。研究の一番の主軸は芥川龍之介の作品論的把握ですが、それだけだと視野が狭くなりがちなのと、もともとが気が多い性質なため、よくいえば幅広く、その実雑然と色々書いてきました。今、仮にそれらを系統立ててみたとき、私にとっての第二の主題(サブ・テーマ)は文芸と戦争との関わりとなるでしょう。

 クロフネという、軍事力を背景にした外圧によって「近代化」を余儀なくされた日本――逆に言えば日本の近代は、初期には西南戦争などに代表される内戦、やがて日清・日露の対外戦争を経て、日中・太平洋戦争(第二次大戦の日本的なありよう)へと進んで行きました。つまり、日本の近代は常に戦争と共にあったわけです。なぜそうなったのか、またその時々に人々(為政者・民衆、そして文学者)はその状況に対してどのように反応したのかということを、特に文芸の方面から――それらを素材として、あるいはその立場から考えてみたいというのが動機になっています。

 それは、芥川龍之介の作家としての活動時期が大正から昭和初頭の所謂「戦間期」に丸々収まっており、日本近代の中では大きな戦争との係わりが薄かった(勿論、「なかった」わけではありません。国レヴェルで直接参戦はしなかった第一次大戦も、日本の社会や文化にとっては大きな影響がありましたし、キャリアの初期に芥川は海軍機関学校に英語教員として籍を置いていました)稀有な時期に当てはまることにも拠るのかもしれません。

 私の研究手法は多く基本的に微分的なのですが、だからこそいつかそれらの成果を積分すべく、また狭くなりがちな自らの視野を補完するためにも、複眼的な視点を持たねばならないという意識がどこかで働くように思います。

 そして先述第二の主題から派生もしくは関聯して、複数の個人的に興味ある主題系があるのですが、当面はそれらを封印して、専らメインの芥川研究でとりあえず纏まった成果を発表できれば――というか、せねば……と思っています。いま少し限定すれば、彼の前~中期作品に焦点化して、そこまでの模索の過程と達成された境地というものを、語りなどの技法面を中心に考えているところです。

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国際芥川龍之介学会2018年度大会(於 ロシア・サンクトペテルブルク大学)での一こま。正面中央が筆者、その右の発表者は本学大学院生の宮崎由子さん