日本建築学会関東支部研究選集6について
以下,『日本建築学会関東支部研究選集6』(日本建築学会関東支部研究選集運営委員会編,1998年3月)の冒頭部分からの抜粋です。
「研究選集 6」発刊に際して
Ⅰ.背景・主旨
1.建築に関する学術・技術・芸術の発展に貢献することを目標に、日本建築学会の活動範囲は、近年の社会経済の発展、科学技術の高度化の中で拡大し、多様化しています。これと同時に建築に関わるいろいろの分野で新しい境地を拓くことの期待が大きくなっています.特に建築を創る総合化プロセスに重要な役割をはたす学術研究・扱術開発等の課題の独自性、方法の深化、高度化と共に、各分野の連携と学際領域の開拓に新しい展開が求められています。このような研究活動を促す環境づくりは、21世紀の学会発展の素地をつくる上でも欠かせないものの一つであると思います.
2.大全おける研究発表題数が5000題を超える時代に入り、その内容についても多様化し学術的価値の高い極めて興味深い内容が数多く発表されています.これらの有効な研究が完成度の高い論文としてまとめられる期待は大きいものでありますが萌芽性、先駆性、発展性等の視点から大会発表、支部研究報告等を研究のまとまりの段階に応じ、論文として、またこれに準ずるものとして、いち早く、全国に発表する機会をもちたいとする希望も聞かれます。
3・これまで所期の目的を果たしてきた学術研究発表体系に加えて建築各分野の連携と建築のもつ地域的課題の情報交流を促すため、特色ある支部研究の成果を相互に、速やかに全国研究者、技術者、設計者に提供するため、新しい発表のステージを設けることは、時代の要請として意義深いものと考えております。
4・このような状況に応えるために、その一つの試みとして関東支部研究報告・発表を前提とし、発表時の討論内容を踏まえて、全国に提供するにふさわしい特色ある研究成果を慎重に評価・選考し、1992年10月「研究選集1」として出版致しました。幸い多くの会員の皆様の御賛同を得られた結果と思いますが、1997年3月におこなわれた関東支部研究発表会は関東支部以外の会員の皆様のご参加を含め着実に発表者増が進行し、活発な討議がおこなわれています。この成果を「研究選集6」として出版することに致しました。今後さらに充実した研究発表の場として整えて参りたいと願っており、学会員皆様の積極的なご参加を期待致しております。
Ⅱ.「研究選集」の編集等について
1・「関東支部研究選集運営委員会規程」(資料1)によって選考・編集がおこなわれた。
2・研究報告の選考は「関東支部研究選集選考委員会」が「関東支部研究選集選考要領」(資料2)にもとづいて1996年度発表された支部研究報告(151題)を対象としておこなわれた。
3・選集の研究報告は各部門毎に研究報告数のほぼ3割程度とし、きらに境界領域の研究、複数の部門にまたがる研究として評価されるもの、特別に選考されたもの等を含めて45題とした。
4・選考された支部研究報告については、発表当日に討譲された内容をふくめて、選評を付すこととした。選評は研究選集選考委員会委員が各部門の各研究報告毎におこなうこととした。
5・「関東支部研究発表会応募要項」に指定された文字数を大幅に超える研究原稿もあり、選考の際に問題を問われたが、93年以降は指定文字数を超えるものは、選考の対象からはずすことを確認した。
6・選考決定後、採用研究報告の明かな誤字・脱字等が含まれる論文について研究発表の本来の体系を考慮し、第5集より誤字・脱字の訂正を認めないこととした。
7・この研究選集は、発刊の主旨に治って、全図の主要な研究機関等に広く提供することとした。
環境工学部門
総 評
1996年度の環境工学部門における論文発表題数は36題であった。その内訳は大きく空気環境6、都市関連10、都市ェネルギー・廃棄物関連5、都市・郊外の微気候7、空間評価・光環境・通信環境8に分けられる。
近年の傾向としてほぼ発表題数は同等であり、大会で発表題数の多い熟・空気等のテーマを持つ論文よりは、都市スケール規模の微気候・親水空間・非常時対策などの環境工学関連の問題が多く発表される傾向は定着しつつある。また、一部には研究速報的なものも見られ、関東支部研究報告の投稿締め切り日が大会論文と異なることの効果と思われる。発表会そのものは比較的少人数の間での発表・討論となり、大会とは違った意味で活発な議論が行われた。
このような本発表会の特色を、若手研究者の方々も理解し、利用されることを希望する。以下に、環境工学分野で選考された論文に対する選評を示す。
覆付歩廊内部の温熱環境に関する調査研究
一暑熱地帯(東南アジア)を対象として一その1 計測概要
覆付歩廊(建物の道路に面した中廊が連続したもの)を、東南アジアの3都市でフィールド調査し、温熱環境の側面から検討したものである。筆者らはアーケード関する研究を出発点として、今まで温熱環境に関する研究対象として取り上げられることの少かった都市内空間に注目して研究を進めており、本報では、覆付歩廊内部と外部の熱環境(気温、湿度、風速、短波・長波放射)の測定を行っている。各都市2日間の測定であり、周囲の状況、測定日の天候による影響が大きいことを考えると今回の判定だけから普遍的な結論を導くことは困難だが、今後の発展を期待したい。なお、(その2)ではMRT、SET*などを用いて分析を行っているが、テーマ自身を新たな研究領域を切り開いたものとして評価し、(その1)を取り上げた。