戦前期の南方地域における建築および住まい方と気候風土の関連性
(→旧南洋群島における日本委任統治時代の建築物と建築活動)
地球環境問題の解決が急務となっている今日,建築分野においては,できるだけパッシブな室内環境調整手法を用いた環境共生型の建築への取り組みによって,その解決に大きく寄与することができると考えられます。
ところで,主として第一次世界大戦後から第二次世界大戦終戦前には,日本より厳しい自然環境を持つ熱帯の南方諸地域へ数多くの日本人が進出し,活発な建築活動を繰り広げていました。当時は,現在のように機械的な室内環境調整手法が発達していないにもかかわらず,できるだけ日本本土での生活習慣にあうように,年間を通して高温多湿な自然環境を緩和する工夫がなされていたと考えられます。ここでは,従来の建築環境工学の分野ではほとんどみることができなかったアプローチですが,先人が用いていたパッシブな室内環境調整手法,即ち先人の知恵を現代へ紹介し,応用を図ることによって,地球環境問題の解決に寄与することを試みています。
一方,戦前期における日本の「南方進出」については,政治・経済の側面からは様々な研究が進められていますが,技術的な側面,とりわけ建築活動に関する研究はこれまでほとんどなされていません。また戦前期の日本人による建築活動についても,旧「満州」や朝鮮半島,更には台湾におけるそれについては数多くの既往研究注がありますが,南方諸地域,特に旧日本委任統治領である南洋群島での建築活動の実態はほとんど明らかにされていません。戦後50年以上経過している今日,早急に調査を進め,資料の定着を図らなければ,その実態を永久に明らかにできない危険性があり,早急な調査および研究の必要性があると考えられます。
このような背景のもとで,日本委任統治時代の旧南洋群島を中心とした戦前期の南方諸地域を対象として,
1)そこで行われていた日本人による建築活動の実態を明らかにすることによって,他の植民地諸地域における建築活動と比較し,
2)当時用いられた室内環境調整手法の実態を明らかにすることによって現代への応用を図り,環境共生型の建築の計画に役立てるよう試み,
3)日本のいわゆる「南方関与」の技術的側面,特に建築活動の側面を明らかにすることによって,技術移転のあり方について考察する,
ことを目的として研究を進めています。
なお,「戦前期日本の南方進出に伴う建築活動と室内環境調整手法に関する研究」に関連して発表した論文などは,下記の通りです。
著書(分担執筆)
- [1]辻原万規彦:パラオに残る日本委任統治時代の建物,パラオ共和国−過去と現在そして21世紀へ−(須藤健一監修,倉田洋二・稲本博編),おりじん書房,pp.208〜223,2003.4.
- [2]辻原万規彦:南洋群島/熱帯気候下の住宅,社宅街 企業が育んだ住宅地(社宅研究会編著),学芸出版社,pp.217〜230,2009.5.
復刻出版
- [1]今泉裕美子監修,辻原万規彦編集:『南洋庁公報』,全25巻+別巻1,ゆまに書房,2009.5〜2010.5.
住宅研究総合研究財団論文集
- [1]辻原万規彦,今村仁美,岡本孝美:旧南洋群島における日本委任統治時代の官舎・社宅に関する研究,住宅研究総合研究財団論文集,No.33,pp.195〜206,2007.3.[PDF File (2.9MB)]
東京文化財研究所関連
- [1]辻原万規彦:パラオにおける日本統治時代の建築物の活用と保存,第19回国際文化財保存修復研究会<文化遺産の公開・活用と保存環境>資料集(独立行政法人文化財研究所 東京文化財研究所国際文化財保存修復協力センター編),pp.29〜40,2005.12.21(会場:東京文化財研究所セミナー室).
- [2]辻原万規彦:パラオにおける日本統治時代の建築物の活用と保存,叢書[文化財保護制度の研究]文化遺産の公開・活用と保存環境[第19回国際文化財保存修復研究]報告書(独立行政法人文化財研究所 東京文化財研究所国際文化財保存修復協力センター編),独立行政法人文化財研究所 東京文化財研究所国際文化財保存修復協力センター,pp.75〜95,2006.3.
日本建築学会九州支部研究報告
- [1]八幡真樹子,辻原万規彦,平川真由美:「南方建築」に用いられた室内環境調整手法−戦前期日本の南方進出に伴う建築活動と室内環境調整手法に関する研究 その1−,日本建築学会九州支部研究報告,第40号・2〔環境系〕,pp.129〜132,2001.3.[PDF File (500K)]
- [2]矢野詩史,辻原万規彦,平川真由美:南洋群島における建築組織について−戦前期日本の南方進出に伴う建築活動と室内環境調整手法に関する研究 その2−,日本建築学会九州支部研究報告,第40号・3〔計画系〕,pp.633〜636,2001.3.[PDF File (536K)]
- [3]辻原万規彦,香山梢,今村仁美,平川真由美:ヤップ島に現存する日本委任統治時代の建築物(1)−戦前期日本の南方進出に伴う建築活動と室内環境調整手法に関する研究 その3−,日本建築学会九州支部研究報告,第41号・3〔計画系〕,pp.413〜416,2002.3.[PDF File (352K)]
- [4]香山梢,辻原万規彦,今村仁美,平川真由美:南洋群島における建築物の床下の構造について−戦前期日本の南方進出に伴う建築活動と室内環境調整手法に関する研究 その4−,日本建築学会九州支部研究報告,第41号・3〔計画系〕,pp.417〜420,2002.3.[PDF File (460K)]
- [5]辻原万規彦,香山梢,今村仁美,平川真由美:旧南洋群島への建築技術の伝播(1)−戦前期日本の南方進出に伴う建築活動と室内環境調整手法に関する研究 その5−,日本建築学会九州支部研究報告,第41号・3〔計画系〕,pp.421〜424,2002.3.[PDF File (432K)]
- [6]辻原万規彦,今村仁美,香川治美:パラオ・コロールにおける日本委任統治時代の建築物の残存状況と旧パラオ支庁庁舎−戦前期日本の南方進出に伴う建築活動と室内環境調整手法に関する研究 その8−,日本建築学会九州支部研究報告,第42号・3〔計画系〕,pp.609〜612,2003.3.[PDF File (300K)]
- [7]辻原万規彦,今村仁美,香川治美:旧パラオ医院本館と旧南洋庁観測所および気象台庁舎について−戦前期日本の南方進出に伴う建築活動と室内環境調整手法に関する研究 その9−,日本建築学会九州支部研究報告,第42号・3〔計画系〕,pp.613〜616,2003.3.[PDF File (408K)]
- [8]辻原万規彦,今村仁美:ロタ・ソンソン地区に残る日本委任統治時代の建築物−戦前期日本の南方進出に伴う建築活動と室内環境調整手法に関する研究 その10−,日本建築学会九州支部研究報告,第43号・3〔計画系〕,pp.585〜588,2004.3.[PDF File (292K)]
- [9]辻原万規彦,今村仁美,岡本孝美:パラオにおける日本委任統治時代の建築物に関する2003年と2004年の調査−戦前期日本の南方進出に伴う建築活動と室内環境調整手法に関する研究 その11−,日本建築学会九州支部研究報告,第44号・3〔計画系〕,pp.749〜752,2005.3.[PDF File (324KB)]
- [10]岩田紘明,辻原万規彦,今村仁美,柏木史成,古内佐知,山本美沙,岡本孝美:「ベラウ国立博物館開館50周年記念特別展示−パラオの日本建築文化−」について−その1 展示の概要と南洋庁本庁庁舎の復元−,日本建築学会九州支部研究報告,第45号・3〔計画系〕,pp.773〜776,2006.3.[PDF File (496KB)]
- [11]柏木史成,辻原万規彦,今村仁美,岩田紘明,古内佐知,山本美沙,岡本孝美:「ベラウ国立博物館開館50周年記念特別展示−パラオの日本建築文化−」について−その2 パラオ熱帯生物研究所の復元−,日本建築学会九州支部研究報告,第45号・3〔計画系〕,pp.777〜780,2006.3.[PDF File (684KB)]
- [12]辻原万規彦,今村仁美,安浪夕佳:アメリカ議会図書館所蔵『南洋庁東部支庁関係書類』について-戦前期日本の南方進出に伴う建築活動と室内環境調整手法に関する研究 その12-,日本建築学会九州支部研究報告,第46号・3〔計画系〕,pp.693〜696,2007.3.[PDF File (188KB)]
- [13]辻原万規彦,安浪夕佳:臨時軍事費営繕費による軍政期南洋群島における建築活動-戦前期日本の南方進出に伴う建築活動と室内環境調整手法に関する研究 その13-,日本建築学会九州支部研究報告,第47号・3〔計画系〕,pp.753〜756,2008.3.[PDF File (1.2MB)]
- [14]辻原万規彦,今村仁美,安浪夕佳:旧南洋興発株式会社の社宅街について-戦前期日本の南方進出に伴う建築活動と室内環境調整手法に関する研究 その14-,日本建築学会九州支部研究報告,第48号・3〔計画系〕,pp.689〜692,2009.3.[PDF File (1.1MB)]
日本建築学会関東支部研究報告
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[1]辻原万規彦,今村仁美,香川治美:サイパン・チャランカノア地区に残る日本委任統治時代の建築物(1)−戦前期日本の南方進出に伴う建築活動と室内環境調整手法に関する研究 その6−,日本建築学会関東支部研究報告集II,第73号,pp.453〜456,2003.3.[PDF File (340K)]
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[2]辻原万規彦,今村仁美,香川治美:テニアン・サンホセ地区に残る日本委任統治時代の建築物(1)−戦前期日本の南方進出に伴う建築活動と室内環境調整手法に関する研究 その7−,日本建築学会関東支部研究報告集II,第73号,pp.457〜460,2003.3.[PDF File (224K)]
日本建築学会大会学術講演梗概集
日本コンクリート工学協会関連
- [1]辻原万規彦:旧南洋群島における歴史的構造物の残存状況と今後,歴史的構造物の診断・修復に関するシンポジウム 委員会中間報告・論文報告集,日本コンクリート工学協会 建築・土木分野における歴史的構造物の診断・修復研究委員会,pp.159〜168,pp.177〜178(本文中に掲載した写真をカラーで再掲),2006.6.(会場:東京理科大学森戸記念館,2006年6月9日(金)10:00〜17:00)
日本建築学会大会研究協議会関連
- [1]辻原万規彦:南洋群島における日本統治期の建築物の現存状況,2009年度日本建築学会(東北)建築歴史・意匠部門研究協議会資料 歴史的建築リストの可能性〜学会・行政・市民との連携に向けて〜(日本建築学会建築歴史・意匠委員会歴史的建築リスト整備活用小委員会編),日本建築学会,pp.81〜86,2009.8.(会場:東北学院大学2号館230室,2009.8.27)
日本植民地研究会
- [1]辻原万規彦:日本委任統治時代の旧南洋群島における建築活動−これまでの研究成果と今後の課題−,2002年度日本植民地研究会第3回例会(12月),立教大学(東京都豊島区),2002.12.14.[レジュメ(図面なし),PDF File (1.4MB)]
太平洋学会