いざカンボジア! 県大生6人が初のインターン
「地域に生き、世界に伸びる」という熊本県立大学のスローガンを実践しようと、2022年9月、6人の学生がカンボジアに渡航。現地の政府機関や民間企業、NGOで約3週間、実習実践活動(インターン)に汗を流しました。
本学では、地域に根差しながら世界を見据える人材を育成するため、1年次から全学生が参加する「もやいすと育成プログラム」を実施しています。さらに、グローバルな視点を持って活動できる学生を育成するため2020年度から、「もやいすとグローバル育成プログラム」がスタートしました。参加する学生はTOEIC®で550点以上を取るなど所定の語学力を満たすことが条件。英語でのディベートやディスカッションを中心とした講義などを通じて、世界でも活躍できる学生を育成します。
今回は、正式プログラムとして滞在費の一部を大学が補助。学部3年生の6人がカンボジアの首都プノンペンなどで活動しました。
≪座談会≫県大から世界へ 海外インターンシップ経験から得た実践力
2020年度にスタートした「もやいすとグローバル育成プログラム」の参加学生の中から、2022年9月、3年生6人がカンボジアの政府機関・民間企業・NGOでインターンを経験しました。今回、5名の参加者が、現地で体験したことや感じたこと、後輩たちに伝えたいことなどを語り合いました。
◆出席者
澤田梨加(文学部日本語日本文学科)
徳永咲希(総合管理学部総合管理学科)
中村理加子(文学部英語英米文学科)
森涼桜(総合管理学部総合管理学科)
東莉乃(文学部英語英米文学科)
※欠席者 横尾小百合(文学部英語英米文学科)
「もやいすとグローバル育成プログラム」参加によって開けた道
澤田 参加のきっかけは、もともと英語が好きだったから。いつか海外に行きたかったので、「よし、これに乗っかろう」と思いました。
徳永 私も同じです。それに4年かけてやり遂げたら、大学生活の集大成になるんじゃないかと。行き先がどこであれ、インターンに参加するつもりでした。
中村 私は英語が好きなのと、単位が欲しくて。英語英米文学科なので、いつか海外に行きたいと思っていました。今回のインターンは、経済的な負担が少なかったから。
森 高校まで座学だったので、もっと実践的に学びたくて参加しました。正直、インターンは他の国が希望だったけど、カンボジア行きは一生に一度のチャンスかもしれないと思って決めました。
東 将来、海外の企業や団体で働きたいと思っていて、実践的な英語を学ぶ良い機会でした。カンボジア行きは、皆と滞在先が同じだから、長期間でも頑張れるんじゃないかという安心感が後押しになりました。
異文化の中で試された柔軟性と主体性
東 私の受入先は「カンボジア日本人材開発センター」(CJCC)。カンボジアと日本の文化・教育交流の場や、カンボジアでの日本語プログラムなどを提供している機関です。そこで、日本へ留学したい大学生向けのイベント運営に携わり、サイトやポスターづくり、SNS発信などに関する業務を行いました。
森 私と中村さんは、コオロギを加工販売する企業「エコロギー」で、妊婦の栄養改善プロジェクトに携わりました。新規プロジェクトで、しかも最終週にはイベント開催のミッションが……。1週目は約60軒の病院にメールを送り、連絡が取れた病院を直接訪問して、妊婦の栄養状況について調査しました。
消費者に突撃インタビューも行いました。皆とても優しかった。カンボジアでは、揚げたコオロギを食べるのが一般的。コオロギに栄養があることを知っているか質問したり、エコロギー社の商品を食べた感想を聞かせてもらったりしました。
中村 2週目は、タケオにある加工工場や養殖農家を見学しました。
森 イベント内容を具体的に考えたのもこの時期。インタビューでは、9割の確率で「コオロギは嫌い」と言われたんですよ。渡航前、「カンボジアの人はコオロギが好き」と聞いていたのに……。
全員 (笑い)
森 でも、油を使わないエコロギー社のコオロギを食べてもらった時、「おいしい」「欲しい」と言われたことが興味深くて、試食イベントを提案しました。
中村 ただ、最後にね……。
森 会場探しという大きな壁がありました。別件で視察予定のお店に試食ブースがあることがわかって連絡したら、工事を理由に断られてしまって。それでも粘って、「調理はしないので」と再度お願いしたら貸してくれました。
徳永 えー、交渉したんだ。
森 以前の自分なら、一度断られた時点で諦めたと思う。でも、とにかく必死でした。
徳永 私は、国際協力NGO「FIDR」(ファイダー)で、カンボジアの子どもたちの栄養環境や教育環境を改善するプロジェクトに参加しました。彼らに日本のごみ処理環境を紹介することと、学校給食を例に日本の栄養環境を紹介して生かしてもらうというプレゼンを行いました。現地の学校へ足を運び、ごみのポイ捨てや校内に保健室がない実態も調べました。
ただ、新型コロナに感染して、1週間半ほど活動を中断。お世話になった部署のプロモーション動画を制作するという最後のミッションがあったため、帰国後もFIDRとやり取りしながら、先日ようやく完成させました。ものすごく達成感がありました。
澤田 動画はどこかで見られるの?
徳永 FIDRの公式サイトで、近日公開です!
全員 おーー!
澤田 私がお世話になったのは「WonderLab」(ワンダーラボ)という会社。教育アプリを開発して、教育格差を少しでも改善しようとしている企業です。滞在中は、教育アプリ「Think!Think!」の導入校や塾の見学のほか、子どもたちと保護者、先生にICT教育についてインタビューして、それらをまとめて発表しました。
6つの公立小学校でICT教育についてインタビューし、1校では折り紙の授業も行いました。目の当たりにしたのは、中心部と地方の子どもたちに英語力の差があること。でも、地方でもICT教育が進んだ学校の子どもたちは、中心部と同じアプリで楽しく勉強していました。日本はICT教育が遅れているので、学ぶことがあるなと実感しました。
カンボジアでの体験から後輩へ伝えたいこと
森 昨日、「治安が不安」と言ってインターン参加を迷う後輩に会ったんです。私も同じように悩んだからこそ、「まずは挑戦して!」と背中を押してあげたい。想像していた何倍も、いい経験だったから。普通の海外旅行と違って、現地で活動する日本人の人生を知る機会にも恵まれましたし。
東 私の周りでも、海外行きを先延ばしにしている人が多い。「受入先や滞在先を全部準備してくれて、海外で仕事を経験できる。こんな機会はないよ」と伝えたいです。
澤田 私は、仲間がいることが心強かった。行ってみないとわからないこともたくさんあるし、色々なことを知るためにチャレンジは大事だから、ぜひ。
中村 楽しかったけど、私は人に話しかける事が苦手で、受入先で与えられたミッションが結構つらかったんです。でも、それを乗り越えて帰ってくることができました。後輩の皆さんにもう一つ。海外キャッシングはできるようにした方がいい。現地で現金が無いと何もできません(苦笑)。
全員 (笑い)
徳永 準備して行ったのに、予想外のことが起きたり、対処しきれないことが出てきたり。おかげで、突き進むマインドが鍛えられました。
東 こんなに自分から動かないといけないことを、これまでやったことがありませんでした。3週間、仕事はもちろん、休日の計画なども自分で考えて行動できたなと感じています。
徳永 英語を使いながら働いて、異文化を学ぶこともできました。インターンは、先生や大学、受入先が準備してくれたもの。そうした方々へのリスペクトと共に、自分は受入先でどのように貢献できるか、目的と主体性を持って参加してほしい。きっといい経験になると思います。
初のカンボジア派遣 2人の教授が橋渡し 学生たちが著しく成長し、次への期待も高まる
「もやいすとグローバル育成プログラム」での初の海外派遣に向けては、国際教育交流センター長のレイヴィン・リチャード教授と、JICA(国際協力機構)から本学に派遣された田中耕太郎特任教授(当時)が橋渡し役を務めました。インターンの学生たちと同行し、現地での支援にも奔走しました。海外体験で学生たちがどう変わったのか、話を伺いました。
国際教育交流センター長 レイヴィン・リチャード教授「将来、アジアでビジネスする人材も出る」
「まじめで与えられたことはきちんとやるけど、自分からは質問や提案はしない」。レイヴィン・リチャード教授は、県立大生に物足りなさを感じていたそうです。「自己紹介では名前と出身校しか話さない。米国の留学生はというと、自分の趣味まで詳しく話します。海外ではいかに自分をアピールして理解しもらうかが大事です」
2年前のセンター設立の翌年度にスタートした「もやいすとグローバル育成プログラム」は将来、海外で活躍する人材を育成するのが目的。その海外実践の場としてカンボジアを選んだのは、「教育的な意味がある」とレイヴィン教授は話します。「イギリスやアメリカに行きたいという学生は多いでしょう。でも、自分から途上国に行く機会はあまりないと思います。今回はそのチャンス。将来、アジアでビジネスする人材も出てくると思います。良い経験になります」
学生たちは帰国後、全学向けに体験を発表しましたが、「自分たちで準備し、質問にもきちんと答えていました。著しい進歩です」と海外体験での成長に目を細めます。
国際教育交流センター 田中耕太郎特任教授「すごく成長した。社会を変える人材になれる」
JICA(国際協力機構)から2020年6月、特任教授として着任。熊本県の国際政策相談役として蒲島郁夫知事のアドバイザー役も兼任しています。来熊前はカンボジア事務所次長だったことが、今回の学生派遣につながりました。
「欧米とは違う経験ができる途上国を勧めました。カンボジアは近くてコストが安く、親日的。米国ドルが使えて、衛生状態も比較的良い」と田中教授。ただ、かつて戦争や内戦があって、恐ろしい国という印象があり、学生たちも「おどおどしていた」そうです。「現地に行ってみると、人々は優しいし、英語が話せる人が多い。タクシーはアプリで呼べるし、社会システムの多くの部分では日本の方が遅れているかもしれません」
文化や生活習慣が違う現地の人たちと一緒に働いたことで、「学生たちはすごく成長しました。社会を変える人材になれる。次の挑戦につながる」と高く評価します。帰国後の学内での体験発表は、「伝えたいという思いを強く感じました。ほかの学生たちも『良かった』と前向きに受け止めてくれました」。田中教授は2月で退任し、ウクライナの日本大使館に赴任しましたが、「熊本県立大学には途上国への学生派遣を続けてほしい」と願っています。