地域に貢献し、世界に伸びていく人材を育てる
少し先の未来を見すえた教育や研究が大事
―創立75周年の節目の年に学長に就任されましたが、率直な感想と抱負を。
本学に着任して36年が経ち、前身の熊本女子大学のことを知る数少ない教員になりました。当時は対外的にあまり目立った大学ではなかったのですが、学生のレベルの高さに驚きました。今も学生たちは勉学に熱心に取り組んでいるという印象を持っています。熊本女子大学の時から、ここは県に貢献してこそ評価される大学だと先輩教員の方々から事ある毎に訓示を受けていましたが、平成6年に共学化されて以降、「地域に貢献する大学を目指す」という方針が強く打ち出され、地域社会に開かれた大学として発展してきました。
ただ、私が在任してきた間にも、世の中が急激に変ってきたことを痛感しています。これまでに築き上げてきた伝統を守るだけではなく、時代にマッチした大学に常に変革する必要があります。卒業して社会で役に立つ人材を育てなければなりません。そのためには、少し先の近未来を見すえて、教育・研究を進めていかなければならないと考えます。
―目標を達成するために取り組まれていることは何ですか?
「地域に生き、世界に伸びる」と大学のスローガンにあるように、コンセプトは明確です。その時々に変化する地域課題をとらえて、必要な基礎的分野を学習し、卒業後にその課題の解決に向かうことができる専門知識や技能を持った人材を育てることに取り組んでいます。実際、卒業生の約6割は地元に就職して、県内の各地域社会の維持・発展に貢献しています。
このことを目指した教育プログラムの一つに、1年生の時に全員必修で「もやいすとジュニア育成」という地域課題に取り組む科目があります。もやい綱をつないで、力を合わせて課題を乗り切ろうという造語です。地域と防災の2つのテーマに分かれ、5~6人のグループで課題に取り組み、全員で研究発表します。文部科学省の補助事業に採択された最初の5年間は、その予算で担当教員を雇い、常勤教員と協力して実施しました。補助事業が終了した後は常勤教員が持ち回りで担当してきましたが、本学の重要な科目の一つとして位置づけられるので、来年度からは、専任の教員を置いて、さらに授業内容を強化していく予定です。
地域問題を学ぶことは、世界につながっている
―国際交流に特に力を入れていきたいと考えておられると伺っていますが。
地域学を勉強することは、狭い地域に限定するものではありません。熊本だけ、日本だけで成り立っているわけでもありません。インターネットが発達した現在、熊本に居ながら、外国とやり取りすることは日常的になりました。「世界に伸びる」ためには、世界共通語の英語の修得が必須です。ただ、卒業時のアンケートでも英語教育への満足度が高くありません。授業だけでは十分な力は身につかないので、この点では、学生にも努力を求めたい。私も語学修得に苦労した経験があるのでわかりますが、時間を掛けて努力しないと身につきません。大学にはeラーニングシステムがあります。外国人に会わなくてもコンピューターが英語を教えてくれます。全学生が24時間、どこでも学べるのに、まだ生かし切れていない。
英語を学ぶ動機付けが必要です。「もやいすとグローバル育成プログラム」では、TOEIC が550点以上の学生たちに英語の特別授業を行い、今年はカンボジアに派遣しました。また大学院では、JICA(国際協力機構)と連携して国際教育枠を設け、海外青年協力隊の帰国者を受け入れるほか、院生を協力隊員として派遣する制度も創設しました。
―在学生や県立大を目指す高校生へのメッセージを。
熊本の課題を明確にし、解決していく人材を育てたい。「地域」を入り口として勉強し、そこから普遍的なものを身に付けてほしいと思います。私は有明海の環境問題を研究してきましたが、それは地球レベルの環境の問題にもつながっています。環境問題は特定の地域で起きるのですが、突き詰めていくと別の地域でも起きます。有明海の赤潮や富栄養化は、いまや世界中で問題となっています。「地域に生き、世界に伸びる」ということにも通じると思います。そのための教育に必要な施設や人材は、県立大学には揃っています。学生の皆さん、それを貪欲に活かしてくれることを望みます。高校生の皆さん、「地域に生き、世界に伸びる」について学ぶために、本学の門を叩いてくれることを願っています。